豆腐小僧の随筆

気ままに書くよ

感想文:鏡の国 著:岡崎琢磨 出版:PHP研究所

「美しい」ことが必要な世の中に哀しみ・苦しみを感じる物語。

ミステリーではあるが、私はそう感じた。

 

時代設定がすごくよかった。過去だけど今で、今だけど未来。登場人物は私と同世代なのに、実は同世代ではなくて。全てがミステリーとして必要な要素だと感じた。

読みやすくて、一気読み。ミステリーとしても素晴らしいけど、ルッキズムに関してもすごく丁寧に描かれていると思う。

 

この本を読んで全く共感できない人は、世の中にいないのではないだろうか。

「かわいい」「きれい」そういわれることは嬉しいし、そうありたいと思ってしまう。

「かわいい」「きれい」は目に見える幸せで、評価だ。

(同じ点では「若さ」も入るだろうが、今回の作品においては「美」が基準のため省略する。)

今は道を歩く人すべてがきれいな時代であると思う。メイクも服もスタイルも、「かわいい」と「きれい」が溢れすぎていて、そうではない自分がおいていかれて嫌われていくような気持になる。

私自身、きれいな顔の人をみると「きれいだな」「かわいいな」と男女問わずに思い憧れる。私がしている運動も心掛けている習慣もいらないのに、少しのメイクでどうしてこんなにかわいいんだろう、どうしてスタイルがいいんだろう、と友人に対して劣等感を感じることもある。

「美」で人を見てしまう自分に嫌気がさすことも多い。

でも、本当は、「私」を見てほしい、とすべての人が思っているのではないだろうか。

 

「美」に限らず、生きているために得ていないといけないと思われていることが多すぎる。

身内、友人、学歴、パートナーとの愛、お金、賢さ、コミュニケーション能力 などなど。

全て目に見えないのに形になった幸せ。その幸せを持ってないと、自分をみじめに感じたり、相手を哀れに思ってしまう。

「不足している存在」だと自他ともに思ってしまう。

 

本に登場する精神科医の言葉を読者に伝えたくて、この話を作者は書いたのではないだろうか。この医師の言葉は、私が人生をかけて得た私への価値を肯定してくれた気がして、すごく嬉しくて涙が出た。

以下は、その言葉を私なりに解釈したものである。

 

私たちは、一人一人がかけがえのない存在だ。他人が持っているものを欲しがる必要はなくて、他人にうらやましいと思ってもらう必要もない。他人に自分の価値を決めてもらわなくても、自分自身で自分の価値を決められる。

 

皆が当たり前のような顔で手に入れている幸せに、嫉妬していた。だからこそ、他人とは違うようなことをして、私も幸せなのだと他人に見せつけたい気持ちがあった。

でも、本当は、私は私自身の価値を知っている。すごく頑張って生きてきた。これからも大変なことはあるけれど、私なら絶対に私を幸せにできると知っている。

そのことを知るまでに、たくさん悩んできた。

いまだに同世代に嫉妬する。私も幸せなのだと強がる気持ちも捨てきれない。

でも、それでも、私自身と私の人生は素晴らしいと思える。

 

今だけれども未来である日本に、作者の希望が少しだけ見えるような気がした。

 

最後に、精神科への理解と受診について。

精神科・心療内科、への受診や診断を怖がらないでほしいです。

心はみえない分、すり減らすことが容易いです。「まだ大丈夫」「私がそんなわけない」。その状況を自分の大切な人がしていることと仮定してほしい。その状況で「お前ならいける。まだ大丈夫」と言えますか?

「自分自身は、自分にとって大切な人」です!!

どうか、自分自身を幸せにしてあげてください。